オイシックス(元良品計画)の奥谷氏より伝授!「オムニチャネル時代のマーケティング戦略」セミナーが開催されました
東京販売士協会の××です。
今回は、奥谷氏をお迎えした「オムニチャネル」についての講演レポートとなります。
「オムニチャネル」って何か聞いたことあるぞ
さてさて、最近何かと小売業界では「オムニチャネル」と耳にされる機会が増えたと思いますが、この言葉自体は先ず、アメリカの老舗百貨店のMacy’sさんが2011年に提唱されたことに端を発します(巻末にて後術)。
Googleトレンドで日本での検索ボリューム(オムニチャネル)を調べて見ると、当初は日本でもその概念はあまり注目されていませんでしたが、徐々にバズワード化し始めた2013年にセブン&アイさんが、日経新聞(12月16日付け)上でなんと見開き(二連版&カラー)広告でブチ上げてからは、日本の新聞紙上でも「オムニチャネル」が賑わうことになります(こちらも巻末にて後述)。
更に、新聞トレンド(日経テレコン)で新聞記事の掲載ボリューム(オムニチャネル)を調べて見ると、ほぼ垂直に新聞での取り扱いも増大し、その後の小売業界で周知されていく過程が、何と無く可視化されますね!
そもそも「オムニチャネル」って何だっけ?
バズワード化した後に何と無く定着した感のある「オムニチャネル」ですが、その定義はあるのか?と思い色々と調べてみました。
まずは真っ先に「親方日の丸」である、経済産業省の定義を探してみると・・・ありました!
“オムニ(omni)”とは日本語で“すべて、あまねく”という意味を持つ。
消費者が商品の購入 に至る過程において、実店舗、PC サイト、モバイルサイト(スマートフォン)、ソーシャ ルメディア、従来型メディア(新聞・雑誌・TV)、カタログ、DM 等、あらゆる販売チャネ ル・情報流通チャネルを経由する時代となっている。
オムニチャネルとは、消費者がこれ らの複数のチャネルを縦横どのように経由してもスムーズに情報を入手でき購買へと至る ことができるための、小売事業者によるチャネル横断型の戦略やその概念、および実現の ための仕組みを指す。
※経済産業省「平成27年度電子商取引に関する市場調査 ※PDFデータ」より
・・・すいません、私の読解力の圧倒的な不足によりまして、さっぱり分かりません。笑
まぁ、ここはお口直しに、定番の「Wikipedia」も引いてみましょうか。
オムニチャネル(オムニチャネル小売り、Omni-ChannelRetailing)は、マルチチャネルの小売りの進化形で、リアル(実店舗)とネット(インターネット通販)の境界を融解する試み
※Wikipedia(オムニチャネル)より
いや、すいません。
もっと分からなくなりました。泣
・・・これって私だけですか?
そうだ、「日本の第一人者」に聞いてみよう!
そんな小売業界のインサイトもあるのではと、東京販売士協会がぜひお招きしたかったのが、「生鮮野菜」を主にEC上で販売するオイシックスさんでCOCO(チーフ・オムニチャネル・オフィサー)を務められる、奥谷 孝司氏なんです。
(最近の自己紹介は「COCO谷です」とされることもあるそう。笑)
前職の良品計画時代の2013年、気鋭のスマホアプリ「MUJI passport」をローンチした以降は、デジタルやコミュニケーション領域ではかなり以前から引っ張りだこで、その界隈で知らぬ人はモグリと言える(?)奥谷氏の略歴をご紹介します。
・1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向しドイツ駐在。
・帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「World MUJI企画」を運営。
・現在定番商品の「足なり直角靴下」を開発してヒット商品に
・2010年WEB事業部長に就任「MUJI passport」のプロデュース
・2015年10月よりオイシックス株式会社入社
・2016年4月より 統合マーケティング部 部長 Chief Omni-Channel Officer
・2015年4月 日本マーケティング学会常任理事就任
・・・このように、リアル店舗~デジタル領域を横断する実務側の側面だけではなく、学術的なバックボーンを合わせ持った奥谷氏だからこそ、各メディアでの発言にも含蓄があるんですよね。
私(谷津)自身もかつて、宣伝会議さんなどで何回もご講演は拝聴してきましたが、奇跡的に東京販売士協会でお招きすることができました!
改めてよく分からない「オムニチャネル」について、日本の第一人者である奥谷氏の知見をご紹介したいと思います。
奥谷氏セミナー「オムニチャネル時代のマーケティング戦略」レポート
平成28年11月5日に奥谷氏をお迎えして、東京販売士協会主催のセミナーを開催しました!
正式タイトルは、
『「オムニチャネル時代のマーケティング戦略」
〜お客様と時間を共有し、絆を深めるデジタルマーケティング〜』
・・・「販売士検定」が2014年から「リテール・マーケティング」を愛称に加わえましたが、リアル店舗寄りの小売業関係者は普段は「デジタル」系に触れる機会が少ないかもしれません。
しかし、HPや今回初めて導入したPeatix(イベント決済代行サービス)等で告知したところ、たくさんの反響をいただきましたので、やはり潜在的なニーズがあったのかな~と思った次第ではあります。
※ぜひぜひ、Peatixの公式アカウントもフォローお願いします!
当日プログラムのサマリー
当日は下記のプログラムに基づき、セミナーは進行しました。
◆奥谷様講演パート
1. 顧客時間の重要性
2. 米国オムニチャネルトレンドから見えるマーケティングと 小売の未来
3. What is Omni-Channel?
◆特別企画(インタビュー形式のフリートーク)
◆質疑応答タイム
具体的な数字や事例もオフレコでご紹介いただきましたが、書ける範囲のみ配布スライドを元に概要をご紹介します。
1. 顧客時間の重要性
講演タイトルにも入る、奥谷氏の「顧客時間」の概念です。
「リテールマーケティング」と「デジタルマーケティング」の決定的な違いの一つに、取得できるデータの範囲があります。
「リテール~」がほぼ購買時点のPOSデータのみに対して、「デジタル~」ではトラフィックの流入から様々なデータで可視化できる為、見込み顧客の「検討」段階から「使用&消費」まで寄り添うことが可能です。
奥谷氏はこの一連のプロセスで、「顧客時間」に寄り添うとしています。
前職の良品計画時代にリアル店舗の経験も持つ奥谷氏は、
「購買時点だけ見てても、なかなか分からない。」
と言われます。
前述のようにデジタル領域は、その検討段階から可視化できるので、リアルの購買時点のデータと紐付ければ、更にお客様に寄り添う施策が可能です。
MUJI web事業部の役割として「ネットとリアルの融合を進めることが最優先事項」があったそうですが、デジタル領域がこのお客様に歩み寄る姿勢に大きな役割を果たしたようですね。
・・・略歴にもありましたが、奥谷氏は2010年にWEB事業部に移って、スマホが普及の兆しを見せる背景の中、「MUJI passport」アプリをプロデュースします。
スマホ普及の背景の一つにSNS(TwitterやFacebook)の普及もありましたが、奥谷氏はオムニチャネル時代の「顧客時間の重要性」のキーとして、もちろんSNSも挙げています。
◆お客様の時間を可視化してくれるもの=Social Media & MUJI passport
(既存顧客の時間をweb事業部が可視化し、お客様の時間に入り込む)
SNSを通した「傾聴(ソーシャル・リスニング)」を元に、購入「前」の分析や購入「後」の対応を行うことで、奥谷氏の提唱される「顧客時間に寄り添う」ことが、更に可能になりますね。
刹那的に「売る」だけにフォーカスしないその姿勢には、私自身も大変共感を覚えるところであります。
2. 米国オムニチャネルトレンドから見えるマーケティングと 小売の未来
奥谷氏は海外視察に行かれる際には、シリコンバレー(アメリカのカリフォルニア州カリフォルニアのベイエリア)に行かれることが多いそうです。
シリコンバレーは世界的なIT企業の一大拠点なので、デジタル・マーケティングの最前線で色々なヒントが垣間見えるんでしょう(うらやましい笑)。
・・・この章ではアメリカで注目を集めるトレンドの紹介や、奥谷氏が実際に試してみた体験談が紹介されましたが、講演のみの提供なのでここでは省略します。(あしからず。)
広大なアメリカでは日本のような、過剰気味できめ細かな物流サービスは整備されていないので、デリバリーに関するサービスを「ITを利用したお客様の課題解決」としてベンチャー企業が目を付けることが多いようです。
奥谷氏は米オムニチャネルのトレンドとして、スマホ等のアプリケーション(APP)が中心になっていると指摘します。
「当たり前のことですが、モノも動けば、お客様も動くと言うことを忘れてはなりませんし、どこから来ても、取りに行っても良いのです。」
また、買いたいと思っているサービスや商品がわかれば企業は対応ができるので、顧客時間のフェーズとして「検討」の部分を可視化することを最重要ポイントとして挙げていました。
昨今では企業側が売りたい商品を、「B to C」なマーケティングで力ずくで売り込むことは難しくなってきましたが、そのような背景で、奥谷氏は「検討」部分の段階に歩み寄って、顧客に寄り添う「B with C」の概念を提唱されます。
・・・特にスマホやSNSの普及で、
「一方的なコミュニケーションでは、もう勝てない。」
と言われていたのが大変に印象的でありました。
3. What is Omni-Channel?
「オムニチャネル」とは何か?という命題ですが、その前に「顧客接点の変容」の系譜を簡単に整理しておきます。
①シングルチャネル(単一接点)/ ex.パパママストアのような「個店」で販売など
②マルチチャネル(複数接点)/ ある人は店舗、ある人はネットのように、「お客様毎に個別に複数」で販売
③クロスチャネル(複数接点)/ 「一人のお客様に複数接点」で販売するが、チャネルを横断した管理ができない
④オムニチャネル(シームレス)/ 繋ぎ目無しにチャネルを横断した、商品・顧客・販促の管理
※奥谷氏のスライドより筆者まとめ
1990年代後半からの流れであるPCやスマホの普及で、顧客接点が多様化したことが見て取れますが、③のクロスチャネル当たりは四方から矢が飛び交うようなイメージで、もう収集が付かなくなってきた感がありますね。
(この系譜は全米小売業協会/NRFからの引用だそうなので、大まかに捉えれば良いかと思います。)
奥谷氏はこのような学術的な系譜や定義は加味しつつ、前述の良品計画時代の実践知や最先端シリコンバレーの見聞を経て、より実務側としての「オムニチャネル」の定義を提示していただきました。
奥谷氏の「オムニチャネル」定義:
「既存チャネルがモバイルデバイスを中心に物流と情報流の両面から繋がり、消費者起点でシームレスな買物体験を実現すること」
下記は奥谷氏が概念図に表したものですが、やはり真ん中で「繋ぎ目を消す(シームレス)」役割を果たしているのが、「モバイルデバイス」という関係性になっています。
オムニチャネルという「現象」を説明したような、経済産業省やWikipediaの定義はあまり頭に入ってこないのですが、奥谷氏にここまで実践知を元に説明していただいたので、私自身は上記の概念図がすっと腹オチする感じを持ちました。
また、この定義を元に「真のオムニチャネル化」という条件も提示されます。
①モバイル with ペイメント(支払い)
②ネットと店舗在庫、情報の可視化
③ピックアップ&デリバリー
・・・うーん、なんだか現実離れしてない?
・・・こんな世界ってあんの?
と思われるかもしれませんが、「実際に米国の小売業は挑戦している」と奥谷氏は指摘します。
そして、オムニチャネルの推進には、実際に小売りの店頭に携わられている方や経営陣に根強く残る、「Technophobic Culture(≒ITへの不信や煩雑化する恐怖)」の払拭が不可欠とも言われます。
現場側からしたらただでさえ忙しいのに煩雑なオペレーションを加えられたり、経営者側は高価なツールやシステムを買わされたりするのではと、ついつい疑心暗鬼になりがちですよね。
「いかに店舗オペレーションの負荷が少なく、接客の武器になるオムニチャネルツールの開発ができるか」
奥谷氏は良品計画時代に実店舗のオペレーションから、Web事業部で現場との板挟み(?)までも経験しているので、ITの恩恵をいかに説くかが重要とされています。
そして、企業側の論理では「リアルとネット」に売上で主従関係を置きそうな感がしますが、顧客側とのエンゲージメントを構築しないと売上に繋がり難い時代背景から、
「ネットとリアルの価値を50/50にしたい」
と最適解はあくまで「等価値」なんだと指摘します!
(顧客との関係性に重きを置く奥谷氏の理念を強く感じるので、大変印象に残る部分です。)
ネットは様々なデータでトラフィックが可視化できるので、検討段階から顧客理解や関係性を構築していける「顧客時間」の重要性が思い返されます。
・・・利用する顧客側から見たら「リアルとネット」も単一の同一ブランドで認識されるし、部署間の対立(セクショナリズム)も顧客にとっては全く関係の無いことなので、役割分担をリレーしていく「統合マーケティング戦略」で繋ぎ目無し(シームレス)を目指すのが最適解になりそうですね。
最後に奥谷氏は「オムニチャネル」について、以下のようにまとめます。
これは、そのまま「オムニチャネル」推進のフローになるかと思います。
既存のEC(エレクトリック・コマース)は時代と共に変容してるので、新しいEC(エンゲージメント・コマース)を全社戦略でデジタル活用するヒントがたくさん散りばめられていた、奥谷氏の講演パートでした。
・・・毎回拝聴して思いますが、奥谷氏の講演はとにかく厚みがスゴイのです。
インタビュー形式のフリートーク&質疑応答タイム
この時間より、東京販売士協会の木下常任理事がインタビュアーとして、事前に募集した質問などを奥谷氏に伺う特別企画となりました。
以下はコーナーから抜粋した、Q&Aをご紹介します。
Q1 「オムニチャネル」はどんな業種が向いていますか?
奥谷氏「日本の小売業で思い浮かべて見ると、専門店は比較的やりやすいのではないか。
例えば、前職の無印良品的なブランドとかですね。店舗と繋ぎ合わせてスケールメリットが出しやすい会社とか。
ただ、基本的に向いていない業種は無いと思っています。」
もし、変化を恐れずにオムニチャネル化を推進しようとしたら、「Technophobic Culture(≒ITへの不信や煩雑化する恐怖)」も払拭していかないと「重荷チャネル」で疲弊も起こりえるかもしれませんね。
(もちろん伝統的な小売業として、居続ける選択肢もあります。)
Q2 「個店」や「単独店」などで何か成功例はありますか?
奥谷氏「(狭義の)オムニチャネルと言えるか厳密にはわかりませんが、2016年の春ごろに日経MJ紙で記事になっていた、奈良県のランドセル屋さん「鞄工房山本」さんでしょうか。
(顧客時間の)「検討」時間をエンタメ化(ランドセル製作の作業現場をオフラインで全て公開)して、購買意思決定に至るプロセスを顧客に楽しませています。
工場見学はオフラインでも、エンゲージメント構築はデジタルで本当に上手にされているので、いつかお話を伺ってみたいですね。」
奥谷氏が読まれた日経MJ紙を自宅で発掘しましたが、2016年の5月4日号で一面で「鞄工房山本」さんの記事が大きく取り扱われていました。
こちらの紙面でも言及されていますが、
「年1万本以上完売する鞄工房山本の強みは、職人たちの作業現場を客が自由に行き来する「ライブ」経営。臨場感が消費者の購買意欲をかきたてる。」
「鞄工房山本のランドセルは阪急うめだ本店(大阪市)など一部百貨店を除けば9割以上が直販だ。」
「一部百貨店などからは協業や新規の取り扱いの要請が相次ぐものの、生産能力が追い付かないため断っているという。」
※日経MJ紙(2016年の5月4日号)より筆者引用
顧客時間における「検討」が、ジワジワと「購買の意思決定」に影響を与える様子がよく伝わってきます!
また、最後の質問でに奥谷氏に今後の活動ビジョンを伺った中で、
「21世紀の新しい小売の姿(ニューフォーマット)を作ってみたい」
と語られているのが、大変印象深く心に残りました。
伝統的な小売業とデジタルの融合を、日本で先駆的に実践されてきた奥谷氏だからこそのビジョンです。私自身も、奥谷氏が創造する新しい小売りで買い物体験してみたくなっています。
奥谷氏の今後のご活躍が、本当に楽しみですね。
(販売士やリアル店舗側の方は、引き続き奥谷氏の動向には要注目ですよ!)
講演終了後は「懇親会」へ
今回の募集要項でアナウンスもしていましたが、講演終了後は任意で懇親会も開かれました。なんと、奥谷氏にも講演でお疲れのところ、懇親会までご参加いただきました!
奥谷氏と歓談する左隣が東京販売士協会 会長の大島ですが、この後は皆席を移動して二人を囲むように話に花が咲いた次第です。
楽しい会話に美味しい料理とお酒で、講演で心地よく疲れた脳に、また新たな刺激が加わります。笑
奥谷様、この度は本当に色々とありがとうございました。
※もう少し「オムニチャネル」の背景の知りたい方は、こちらも合わせてどうぞ。
巻末付録:販売士向け特別付録(スマートフォン普及の動向~オムニチャネルなど)